新型コロナウイルス感染症からワクチンについて

ケアハウス知足荘 看護師 佐藤桂子

2019年12月に中国の湖北省武漢市で最初に発生が報告された新型コロナウイルスは、2020年の3月11日にWHO(世界保健機構)が「パンデミック(=新しい病気の世界的な流行)」と発表しました。3月11日の時点では世界中で感染者が確認された国は114か国で、感染者の数は合わせて11万8000人余りでした。日本では3月の時点で感染者は2000人余りでしが、その後感染は拡大して行きました。政府は危機感を覚え、4月7日には緊急事態宣言を出し、人の動きを制限しました。その甲斐あって、感染の拡大を食い止めることに成功したように思われました。そこで5月25日緊急事態宣言が解除されました。その後は徐々に社会経済活動の段階を引き上げていき、7月22日からGo Toトラベルが開始されました。しかしGo TOトラベル開始以降、新型コロナウイルスの感染は再び拡大していきました。NHKニュースのデータによると、緊急事態宣言が解除された時点での感染者数の累計は約1万7千人でしたが、約6か月が経過した11月25日の時点での感染者累計は約13万7千人で、感染者数は半年前の約8倍になりました。感染予防のためのマスクの着用、手指衛生の徹底を啓発してきましたが、人から人へ飛沫感染・接触感染で新型コロナウイルスは広がっていきました。

ウイルスはたんぱく質の中に遺伝子(DNA又はRNA)を持っただけの、単純な構造の生物で、ウイルス単独では生存できません。生きた細胞の中に入り込み、遺伝子をコピーして増殖して行きます。生物の細胞の中で増殖したウイルスは感染した細胞を壊し、他の健康な細胞に入り込み増殖を繰り返していきます。ウイルスは生き残るためには、次々と生きた細胞に感染していく必要があります。生きた細胞とは人の細胞です。人の移動に伴い次々と感染が拡大していきました。今はこれ以上感染者を増やさないように、懸命に感染症と戦わなければならない状況です。

人類は感染症と戦い続けてきました。そして、感染症と戦うための武器(敵を攻撃したり自分の身を守ったりする道具)を作り出してきました。感染から身を守るワクチンと攻撃する治療薬です。

今回は一般的なワクチンについてお話します。ウイルスや細菌などの感染症に罹ると、体の中で病原体に対抗する抗体が作られます。この機能が免疫です。免疫の仕組みを利用し、感染症に罹る前に準備する仕組みが、ワクチンです。ワクチンを接種することで、感染症にかかりにくくし、罹った場合はその重症化を防ぐことがでます。感染症に罹って難儀な思いをするよりも、予防ができるのであれば、それに越したことはないでしょう。

看護師相談会

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日本で現在接種可能なワクチンは、含まれる病原体等の状態により大きく分けると、生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイドの3種類に分けられます。生ワクチンは、結核、麻しん、風疹、水痘などのワクチンで病原性を弱めたウイルスや細菌を接種し、それらが体のなかで増えることによって免疫力をつけます。生ワクチンは自然感染に近い状態で免疫がつけられます。不活化ワクチンは、ポリオ、日本脳炎、B型肝炎などで、細菌やウイルスを殺し、病原性を消失させ毒素を無毒化したものです。体の中で病原体が増えることはなく、生ワクチンに比べ発熱などの副反応が少ないワクチンです。トキソイドはジフテリアや破傷風などのワクチンで、細菌が産生する毒素をだけを取り出して無毒化し、ワクチンにしたものです。細菌に感染したときに、毒素による発病を防ぐことができます。

新型コロナウイルス感染症のワクチンはまだ開発段階です。上記の3種類のワクチンとは違い、遺伝子を利用した方法で作られる次世代のワクチンと呼ばれています。新型コロナウイルスの世界的な感染が拡大し、急いでワクチンを開発する必要性はもっともですが、ワクチンの副反応が心配になります。ワクチンを接種するリスクとワクチンを接種せずに感染症に罹って重症化や後遺症を負うリスク、2つのリスクを考えなければなりません。ワクチンによる副反応で、健康被害が出るような事態は避けたいことです。

予防接種はその個人を感染症から守り、その周囲の人々を二次感染から守ることにつながります。引いては社会全体を感染症から守ることにつながります。世界中で多くの人が新型コロナウイルス感染症で亡くなっています。今は安全なワクチンが早期に開発され、パンデミックが早期に収束するよう願っています。そして安心して旅行ができますように。